病院で5年間、理学療法士として働いてきた横手香菜さん。
2019年7月からはメディカルフィットネスを伝える施設でトレーニングプログラムを提供しているといいます。
この転職に踏み切ったのは、Beauty Japan コンテスト(以下、BJコンテスト)での大きな体験や出会いがあったから。
病院に勤めるひとりの働く女性から、予防医学の知識と理学療法士の名を広めるため、まるで起業家のように活動する「横手香菜」という存在感のある個人へ。
「敷かれたレールの上をただ歩くだけの人生だった」
そう話す香菜さんの、人生を大きく変えたという2019年のできごとについてインタビューを伺ってきました。
理学療法士の私がなぜコンテストに?
── まずは簡単に自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?
香菜:現在は、吉祥寺にある「Produce」というメディカルフィットネス施設で、「病気になりづらい心身づくり」のサポートをしています。
その前は理学療法士として病院に勤めていて、様々な疾患を抱える患者様のリハビリに取り組んでいました。
主に脳卒中や骨折などが原因で身体が不自由になってしまった方へ、「歩く」や「ご飯を食べる」といった基本動作の回復ができるようなお手伝いをしていました。
── 医療従事者であった香菜さんが、BJコンテストに参加した経緯とはどういうものだったのでしょうか?
香菜:理学療法士という名前を広めること、そして予防医学の知識を広めることの「手段」として考え、出場を決めました。
特に予防については、病院に勤めている限り「3次予防」と呼ばれる、病気の再発防止や後遺症に対するリハビリテーションの領域だけへの対応になってしまいがちです。
本来は病気の発症そのものを防ぐ「1次予防」ができるに越したことはないはずです。
── みんな、ケガや病気になって初めて健康の大切さに気づくんですよね…
香菜:ですが実のところ、BJコンテストに出場するまではそれもぼんやりと考えていた程度で、その想いが「本気」へと変わったのは、コンテストでの体験やメンバーとの出会いがあったからこそだと思っています。
今日は「敷かれたレールの上を歩くだけ」の人生を変えてくれた、この1年間のお話をさせていただくことで、いま夢に挑戦している方や、これからBJコンテストへ出場しようと考えている方への励みになればと考えています。
病院だけが私の働く場所だった
── 「敷かれたレールの上」という表現が印象的だったのですが、理学療法士を目指した最初の経緯は何ですか?
香菜:母が看護師で、母方の親戚たちもみんな医療従事者なんです。
高校生の頃はやりたいこともなく、なりたい職業も特にありませんでした。でもだからといって、大学に行ってからやりたいこと探しをするのはダメだと親に言われていたこともあり、医療従事者を目指すことにしました。
その中でも理学療法士を選んだのは、自分が運動部に入っていたので、スポーツ分野でのケガやリハビリと馴染みがあったから、という理由でした。
── とはいえ、簡単になれる職業でもないと思うのですが…
香菜:何でしょう。やるべきことをこなすことは得意なんだと思います。
だからマジメな人間にもよく見られてきたような気がします。高校の陸上部では部長をしていて、専門学校では副寮長、卒業式には答辞を読んだりもして。
でも実際は、自分で人生を選択しているようで、現実は差し出された場所にただ行くだけ。うまくいきすぎていた気もしてします。
BJコンテストで私が出会ったこと
── 数あるコンテストからBJ(ビューティージャパン)を選んだ理由というのは何だったんですか?
香菜:ほかのミスコンなどでは身長制限などもあって、なかなか出場したくてもできない現状がありました。
そういう中でBJは、身長や既婚歴などの規制がないほか、社会で活躍するという使命感や社会・地域への貢献意識、内面の美しさも審査対象とする新しいコンセプトのコンテストだったことも魅力でした。
── 実際に出場してみてどんな感想を持ちましたか?
香菜:ファイナリストとして出場した日本大会では特にそうだったのですが、参加メンバーのほとんどは会社員ではなく、ご自身で仕事をしている個人事業主や経営者の方々だったんです。
私は病院での働き方しか知りませんでしたし、自分でスケジュールを自由に組むという仕事の仕方にも馴染みがありませんでした。
みんなの生き方に触れる中で、「私も自分で何かをやりたい。自分の人生を生きているという実感を持ちたい」と考えるようになりました。
伝えたいものは、BJコンテストの中で育まれた
── BJコンテストを通して、どのような体験をされてきたのですか?
香菜:日本大会のファイナリストになると、自分と向き合うためのレッスンが増えたように感じました。
特にメンバーみんなの前で発表をする機会が多く、「何をしたいの?」「何を考えているの?」「どうしたいの?」という、YES / NO では返せない回答を日々考えていたので、精神的にもかなり疲れた記憶があります。
私、ものごとを深く考える機会が今まであまりなかったんだなと気づきました。
── 最終的には、どのような結論がご自身の中で出たのですか?
香菜:考え続ける中で出た答えのひとつが「店舗を持ちたい」ということでした。
理学療法士の名を広め、予防医学の知識を広げるということの「手段」って色々あると思うのですが、その中のひとつに「店舗」というものが生まれました。
ただ、起業の世界にいきなり飛び込むことも怖かったし、何よりロールモデルになる人がいなかったので、一度実務経験を積もうと考え、現在の「Produce」さんに転職をすることにしたんです。
ファイナリストとして選ばれるために
── 最終的に日本大会のファイナリストへ選ばれるわけですが、そこまではどのような道のりだったのでしょうか?
香菜:BJコンテストへの参加については、正直迷っていました。特に人の目をすごく気にしていたんです。
もちろんこれまでも真摯に患者さんと向き合ってきたわけですが、病院のスタッフになんて思われるだろうかと心配でした。
だって、休憩の時にリハビリ室で、ヒールを履いて踊っているPT(理学療法士)を想像してみてください。正直、チャレンジは怖かったです。
── それでも最後までやり遂げられた理由は何でしょうか?
香菜:ファイナリストに残るためには、SNSのフォロワー数なども重要な審査基準だったことが大きかったと思います。
同じ病院で働く人に自分のSNSアカウントを教えるのには抵抗があったのですが、とにかく一人でも多くの人に知ってもらう必要に迫られていたので…。
ただ結果的に、病院職員のみんなが応援してくれて、ウォーキングの練習にも付き合ってくれたりもして本当に嬉しかったです。
── 理学療法士は歩行のプロでもあると思うのですが、コンテストでのウォーキングとはまた違ったのではないでしょうか?
香菜:正常歩行だけが「歩き方」じゃないんだなって、とても勉強になりました。
BJコンテストでは、リョウコ先生のウォーキングレッスンのほか、整体師の方による歩き方レッスンもあったんです。歩き方にも種類があるということをそこで初めて知りました。
私は理学療法士なので、「その歩き方は正常か?」という視点しか持っていなかったんです。魅せる歩行は新しい発見でした。
── それでもコンテスト本番で結果を出すことができたのは、どこに理由があると考えていらっしゃいますか?
香菜:リョウコ先生から、「型に縛られなくていい」「みんな同じじゃなくていい」と言ってもらえたのが大きかったです。
あとは、負けず嫌いなところも役に立ったと思います。
子どもの頃はかけっこで6年間ずっと一番で、マラソン大会があるなら帰宅後に家の周りを走って練習したりとかしてました。学校のテストも、徹夜でも何でもして必ず上位に入るようにしてました。
高校生で陸上をやっていた時も、最後に良いタイムが出る気がして、高3の秋まで粘りました。結果、関東大会にも出場できたり。そういう性分もあると思います。
これから横手香菜が伝えていきたいこと
── BJコンテストでは最終的に、ファイナリストに選ばれるだけでなく「賞」を受賞することもできましたね。
香菜:日本大会では「モストインフルエンシャルオブザイヤー賞」を、東京大会では「男子専科賞」をいただき、予防医学の専門家としていくつかのウェブサイトでコラム執筆のお仕事などをいただけました。
私個人としても『&Therapis』という、リハビリ専門職を集めたコミュニティ作りの構想も動き始めています。
── そこまで頑張れるモチベーションは何なのでしょうか?
香菜:私、自分の家族がめちゃくちゃ大好きなんですよ。
予防医学のことを広く伝えたいと思ったキッカケも両親にずっと長生きしてほしいという想いからでしたし、大切な人を守りたいという信念が根底にあります。
そして何より、このお仕事が大好きなんです。
香菜:専門学校を卒業した入職1年目に、なかなか結果が出せずに苦しんでいた時期がありました。
患者さんの大切な時間とお金をいただいているにもかかわらず、先輩たちと自分を比べて、当たり前ですが、技術の質の違いがあることに落ち込んだり。
そんな時に勉強熱心な同期の仲間たちが勉強会を開いてくれて、そこから勉強を続け、患者様の笑顔が見れるようになり、今の仕事が好きになっていきました。
こういった経験の一つひとつが私を支えてくれているのだと思います。
予防医学~ひとりの健康を社会の健康へ~
── 最後になりますが、横手香菜さんの考える「予防医学」についてお話を伺ってもよろしいでしょうか?
香菜:予防医学について考えるキッカケになったのは、病院で回復期のリハビリを担当していたある出来事からでした。
入退院を繰り返したり、何年後かに再発する患者さんが多かったんです。当時は病院の中でしか患者さんに関われなかったので、自宅に戻ったあとどのように過ごされているのかなとずっと気になっていました。
いま働いているメディカルフィットネス「Produce」では、医療×運動をテーマに、健康意識や予防意識が高い方々の「1次予防」に携わることができています。
── 病院勤めの頃よりも、健康を考える人との接点が増えた印象がありますね。
香菜:ただそれだけでは「すべての人に予防医学を」というビジョンを果たすことはできません。
理学療法士の強みは、1:1の個別でその人の身体のことを考えたプログラムを作れることにありますが、店舗という枠の中だけでは限界があります。
そのために私は、SNSの活用を積極的に行っています。
── 苦手だったSNSでの発信を、今は武器に変えているんですね。
香菜:病気になりたくない、健康でいたいと考える人が今の店舗に来てくれているので、そこで話がスムーズに進むのは当たり前なんです。
なのでセミナーを開催していくことも考えましたが、課題にあるのは店舗やセミナーに足を運ばない層の人たちです。
だからこそ、大勢の人の目に触れる機会の多いSNSを積極的に活用することにしました。
── 具体的にどのような使い分けをされていますか?
香菜:インスタグラムでは、一見して「予防医学」とは関係ないこともどんどん発信しています。
まずは「横手香菜」という人間そのものを知っていただき、そこから予防医学に関心を持つキッカケになればと思っています。
一方でフェイスブックでは、写真だけでなく文章も読んでくれるSNSだと思うので、そこでは自身の活動や報告などを発信するなど使い分けをしています。
香菜:大勢の人に「健康っていいよね」という認知が広がったあと、個々に「正しいこと」を伝えていくのが順番として良いのかなと思ってます。
店舗やセミナーだけでは届く範囲に限りがあるという話をしましたが、広く伝えることにもまた別の “限界” があります。
── 別の “限界” があるとはどういうことでしょうか?
香菜:極端な話、運動が大切ですと伝えたことによって、心不全の方が過剰な運動をして悪化させてしまったら本末転倒です。
私の思う予防の3本柱は「睡眠・運動・食事」なので、その重要性や健康のメカニズムまではSNSやセミナーなどでも伝えていきますが、一人ひとりの動作を評価して、その人に合った運動プログラムを作れるのは理学療法士です。
自分に合った情報を、一人ひとりが選択できる世の中の実現が私の目標です。
── BJコンテストを通して、横手香菜という人間そのものが大きくなった印象を受けました。
香菜:私もずっと病院を飛び出すことができないかった人間です。でも大丈夫。
会社員でも専門職でも、モデルやウォーキングの経験がなくても、気持ちを持って「本気」でやっていれば周りは応援してくれます。
そのことに改めて気づかされ、支えられていることを実感した1年でした。
■横手香菜(Kana Yokote)
・Instagram https://www.instagram.com/kana.yokote/
・Facebook https://www.facebook.com/kanayokoten
・Twitter https://twitter.com/kanapiiii154
・男子専科 http://danshi-senka.jp/category/?id=110
・SIZZLE(シズル) https://sizzle.style/members/横手香菜